会社の中での当たり前、それってあり?なし?

あるある事例①:お昼休憩中に電話がかかってきたが電話にでなかったら上司に怒られた。または電話対応のために昼休憩中も事務所内で待っているようにと指示されて外食できない。

あるある事例②:仕事中にトイレに行ったり、水分補給をするために数分間作業場所から離れて直ぐに戻っただけなのに、上司から「休憩時間以外のトイレや水分補給は認めない規則になっているから、その時間分は減給する」と言われた。

あるある事例③:仕事上必要な機械や道具の準備や片付けを勤務時間内に行ったら上司に怒られた。または準備や片付けを勤務時間外に行うためにその時間分の残業申請をしたら却下された。

 

どれもよくある?事例だと思いますが、①②③それぞれ会社(上司)の対応は適切だと思いますか?

どうも、マルワのシャドーサイドあれこれ担当です。

本日は、「会社の常識は社会の非常識? 法令遵守は誰でもできるSDGs&CSRですよね!」という感じの、新年度を前に今一度労働についてのルールを押さえておきましょう、という小話です(約10分で読めます)。

※毎度毎度になりますが、ここに記載するような事例は当社のことではありませんし、特定のどこかの企業のことでもありません。あくまでも、「一般的な業種職種の一般的な例」としてネットやニュースの記事等を参考にしたものです。

 


本題に入る前に当たり前のことではありますが、労働に関する様々な事項(労働時間、休憩、休日、給与、ハラスメント等)については、労働基準法をはじめとした労働関係法および関連する法令で規定されています。当然法令に反してはいけません。

みなさん「そんなの知ってるよ!」だとは思いますが、法令を踏まえて、上記3つのあるある事例はどうなのか、というと……

①:休憩中に電話対応等の「労働」はしなくても問題ない(というか、労働させてはいけない)。実際に電話に対応する・しないに関わらず待機させることも「労働時間」になるのでNG。

②:常識的な程度において休息は認められるので休息分を減給するのはNG(そのような規則も無効)。

③:仕事上必要な準備や片付けも労働に含まれるので勤務時間内に行っても問題ない。勤務時間外の作業を指示するなら時間外労働として認めなければならない(=残業代を支払う必要あり)

ということになります。

「それが当社の決まりだから」とか、「まぁ、これくらいはいいかな(そういうものでしょ)」という感じで昔からずっとそうしている、という場合も多いのではないでしょうか……

 

①~③について、以下にもう少し詳しく書いてみます。

 


①「休憩時間」の3原則を忘れずに!

「休憩」は、「労働者が肉体的にも精神的にも労働から離れることが保証されなければならない」ものである、とされています。つまり、会社から何らかの作業を指示されて行っている時間はもちろん、手持ち時間(待機時間)も休憩には含まれない、ということになります。

また、休憩には次の3原則が適用されなければなりません。

  • 途中付与の原則(勤務時間の間に休憩を与える)
  • 一斉付与の原則(同一職場内で勤務する者には一斉に休憩を与える)
  • 自由利用の原則(労働者が労働から離れることが保証されていなければならない)

ということで、あるある事例①は、休憩時間中に労働をさせる(指示する)ことで休憩中の自由な行動を制限しているため、「自由利用原則」に反します※1(警察官や消防士、児童養護施設で児童と起居をともにする職員等、自由利用の特例が法令により認められている労働者は除きます)。

※1 他にも、お昼休み中に昼食をとりながら部署ミーティングを行う、休憩中の社員を呼び出して業務指示を与える等も「労働から離れることが保証されていない」ため休憩時間とは認められません。一方で「自由利用」といっても、企業の規律や秩序の維持に支障がでるような危険・迷惑行為等について、企業は禁止・制限することができます。

どうしても休憩時間内に電話対応や急ぎの仕事をお願いするのであれば、その仕事にかかった時間分は別途休憩を与える、時間外勤務手当を支給する等で補填する必要があります。(ただし、休憩しなかった分早めに勤務アップしていいよ、というのは「途中付与」に反するのでNGです)。

また、案外知られていない気もしますが、「一斉付与原則」があるので、同一の職場に従事する労働者全員一斉で休憩を与えなければなりません。そのため、電話対応のために1-2名のみ休憩時間をずらして勤務してもらう、シフト制で数名ずつ交代で休憩にする等という場合は、一斉付与を与えない従業員の範囲やその場合の休憩の与え方についての労使協定を締結して労使間で合意する必要があります※2(労基法第34条2項)。

※2 小売業、飲食業、病院等法令により特例が認められている一部の業種では協定なしでも個別に休憩を付与することができます。また、休憩の一斉付与適用除外についての協定では、協定書の労基署への提出義務はありません。

なお、休憩時間は労基法第34条により「6時間を超え8時間以下の労働なら最低45分間、8時間を超える場合は最低1時間」与えなければならない、と定められているので、それに満たない時間しか休憩を与えない(休憩できない)というのもNGとなります。

 

②休息は常識の範囲内で!

労基法上の明確な定めはありませんが、休憩時間とは別に勤務中に「お茶を飲む」「トイレに行く」等といった「休息」をとることは認められ、それらのちょっとした休息は、すぐに業務に戻ることができる状態であるので「使用者の指揮命令下にある状態=労働時間」と解釈され、労働時間に含まれます

一方で、人によっては、または休息時間の長さや頻度によっては、「余分な休憩(=サボり)」としてトラブルになったり、休息をあまりとらない他の社員の不公平感につながったりすることもあります(もちろん、休息しながらメール等で取引先と連絡をとっていたり、アイデアを考えていたりといったカタチで仕事をしている場合もあることはちゃんと考慮しておかないといけないことです)。

休息か休憩か……は、時間や頻度を含めた実態により判断するしかないですが、過去の判例等から、一般的には次のように判断されることが多いようです(これらが正しい判断であることを保証するもではありませんのでご了承ください)。

  • 休息といえそうな場合=実態として「すぐに業務に復帰できる状態」であって、常識的な頻度である場合
  • 休息とはいえなさそうな場合=実態として「すぐには業務に復帰できない状態」である場合、または業務遂行に支障がでる(他の社員に迷惑が及ぶ)くらいの頻度である場合

例えば、「事務所の一角に喫煙所があり、午前と午後にタバコを1本ずつ吸う(約5分)」「事務所内にあるコーヒーサーバーで一杯淹れて飲む(約5分)」程度であれば休息として認められ得る一方で、「事務所がビル10階で喫煙所はビル1階の外にしかなく、1回喫煙所に行ったら30分くらい戻ってこない」「トータルすると1日のうちに1時間以上コーヒーを淹れたり飲んだりしている」等の場合は休息とは認められない可能性があります。

少し話が逸れてしまいましたが、あるある事例②については、常識の範囲内での休息は労働時間として認められるものなので、その時間分減給する(休憩としてしまう)のはNGということになります。また、休憩時間以外の水分補給やトイレ等を認めないことを就業規則として定めることもNGです。万が一就業規則でそのような事項を定めていたとしても、法令が優先(適用)されるので、休息は認められることになります(勤務中の水分補給やトイレを禁止することは健康や生命にも影響が及ぶ危険があります)。

一方で、なんでもかんでも休息時間とはなりません。あくまでも常識の範囲内で休息するようにしましょう。

なお、喫煙やコーヒーブレイク等の休息については、事業上の合理性と必要性から就業規則等で一定の制限を定めることは可能であるようです※3

※3 喫煙については、喫煙者の「喫煙の自由(権利)」は認められる一方で、労働安全衛生法や健康増進法等により喫煙場所がかなり制限されます(受動喫煙対策)。そのため、「すぐに業務に復帰できる状態」ではなくなる場合も多く、問題になりやすいという側面があり、喫煙所の利用時間や回数を制限する企業もあります。

 

③準備や片付けも立派な仕事!

「準備や片付け(清掃)は勤務時間内にやってはいけない!」というのは、労働慣習(職場の不文律)として定着してしまっていることの定番ではないでしょうか。

しかし、労働時間は「客観的にみて、労働者が雇用主の指揮命令下に置かれている時間」と定義されるため、会社の指示で行う準備などの時間や手持ち時間(待機時間)も含まれる※4と解釈されます。

あるある事例③の場合では、準備や片付けも業務上必要な作業であり、会社が指示するのであれば、それは労働時間として認められなければならず、勤務時間内の準備を禁じたり、勤務時間外の片付けを残業として認めないということはNGになります。

当然ですが(とはいえ、残念ながらこれもあるあるですが)、新入社員やアルバイト社員だけが勤務時間外に準備や片付けを行う(残業扱いではない)というのも正しいあり方ではありませんし、もし、準備や片付けを勤務時間外に行うよう指示するのであれば、残業として扱わなければなりません。

※4 他にも、「作業場や会社周辺の清掃」「会議やミーティング」「電話やメールを待っている時間」「クレームやミス対応のための作業」等も会社(上司)指示の元で実施するのであれば、労働時間に含まれることになるため、勤務時間外に行うのであれば残業(=割増賃金発生)となります。

しかし、労働者が上記のような活動を勤務時間外に自発的に行う(会社からの指示ではない)場合は、労働時間とはみなされない場合があります。そのため、会社(上司)からは明示的には指示しないが、「でもやらなければいけないから」、あるいは「自発的に行わないと悪く思われてしまうから」、労働者が表向きは自発的に勤務時間外に準備や片付けを行っているというケースが多いように思います。

また、準備や片付け等を残業として認める場合でも、(これも労働慣習の「あるある」ですが)1時間以内の残業は残業として認めない(残業代は支給しない)等といった不文律が定着していることもあります。

そのため、片付けに20分かかったとしても、それは残業ではない、として処理されるところもあるようですが、これもNGで、残業は1分単位で計上されなければなりません※5

※5 労基法上は1分単位で計算しなければならないので、20分間の残業を「残業なし=残業代なし」とするのはNGである一方で、経理処理の利便性のために「20分の残業でも1時間分として残業代を支給する」というのはOKです(労働者にとって不利益でなければ認められます)。なお、2023年4月より、月60時間を超える分の残業代の割増率は中小企業でも50%が適用されます。

  


……相変わらず長いだけの駄文で失礼しました。

世の中の多くの事柄については、立場によって解釈が異なることもありますが、だからこそ、その判断は客観的に「適切」なのかどうか(バイアスがかかっていないか)ということをよく考えるようにしないといけないですね(私自身にも言い聞かせつつ)。

 

今回のブログに書いたような法令と社内不文律のギャップ等については、「正しいことを知っているかどうか」ということがとても重要です。

なんか難しいから…よくわかんないから…といって、上司や会社から言われたことを聞いているだけ、または自分が言われてきたことをそのまま後輩(部下)に教えるだけでは、自分が損してしまったり、間違ったことを教えてしまったり、ということにもなりかねません。

幸い、最近では一般労働者向けの労働関係の法令や働き方についての書籍が多数出版されていますし、専門家の書いたブログも無料で読めたりもしますので、それらを活用して「知っておく」ことをおススメします。 

持続可能な社会を実現するために、(わざわざSDGsというワードを持ち出さなくても)倫理的に考えて生きていく、そのためには「何がいいことか、何がいけないことか」を間違えないこと(=知ること)が大切ですね!

 

そんな私の脳内DJの本日のパワープッシュは、Brit Popなんて名称で括られることも多かったUKポップの代表的バンド、blurの壮大なスケール感のある名曲、“This is a low” です!

この曲名と今回のブログの内容で「なんでやねん!」とツッコんでもらえると幸いですが、ブログの内容は法令(law)、曲名は低気圧(low)……(最初にこの曲を聴いてからしばらくの間 “This is a law” だと勘違いしていたことは内緒にしておきます。)

孤独や不安、混乱等の原因ともなる低気圧が近づいてきても、それは災いではない……」といった感じの歌詞であり(←私の個人的和訳&解釈ですので正しいかどうかわかりませんが)、労働環境の改善は、場合によっては企業側(雇用側)からも労働者側からも「law」ではなく「low」なのでは??なんて思われてしまうこともあるかもしれませんが、それは災いの原因になるものではなく、むしろ、不安や混乱を排除してくれるものなのではないかと思った、という小話でした。

最後に、今回のブログと同じような労働の「時間」に関するブログを過去にも書いております。併せてお読みいただけると幸いです。

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