社内に一人、なんでもテキパキこなしてしまう人がいる。 仕事が早くて、クオリティも高くて、お客様からの信頼も厚い。
そういう人の存在は、会社にとってとても心強いものです。
一方で、経営者側の人はふと考えることもあるのではないでしょうか。「もしこの人がいなくなったら、どうなるんだろう」と。
組織を守るために、技術や経験を次の人へつなぎたい——その思いは、とても自然なことだと思います。ただ、いざ動き出すと「思ったより難しい」と感じることも多いようです。
ベテランの仕事が「簡単そう」に見える理由
長年その仕事をこなしてきた人の作業は、傍から見ると実にスムーズです。 迷いがなく、手が止まらず、あっという間に仕上がっていく。
だからこそ「見ていれば覚えられそう」「マニュアルにすれば引き継げそう」と思ってしまう。
でも実際には、その「スムーズさ」の中に何年もの経験が溶け込んでいます。
デザインひとつとっても—— どの余白なら読みやすいか、どの色の組み合わせが印刷で映えるか、この紙ならどの加工が合うか。そうした判断のひとつひとつは、頭で覚えたものではなく、体で積み上げてきたものです。
マニュアルに書けるのは「何をするか」だけ。「なぜそうするか」「どのタイミングでそうするか」は、なかなか言葉になりません。
手順は移せても、「判断力」は移せない
業務の「手順」は引き継げます。 でも、その人が長年かけて培ってきた「判断力」や「感覚」は、簡単には引き継げません。
- お客様の言葉の裏にある意図を読む力
- 「なんかちょっと違う」と気づく感覚
- トラブルが起きたときの対処の引き出し
こういったものは、時間をかけて経験の中で育つものです。 人を替えれば即日同じクオリティが出せる——というわけには、なかなかいかないのが現実です。
「そのまま移す」より「育てながら移す」
「では引き継ぎは無理なんですか?」と問われれば、そんなことはありません。
ただ、「そのまま移す」のではなく、「育てながら移す」という発想に切り替えることが大切です。
時間をかけて隣で仕事を見せる、小さな案件から任せていく、判断の理由を言語化する習慣をつける。地道ですが、それが結果として一番確実な方法です。
私たちも、社内でそうやってスキルをつないできました。
「上手い人がやったら簡単そうに見える」からこそ、その価値は見えにくい。 でもその見えにくい価値こそが、会社の本当の強みだと思っています。
だからこそ、焦らず、丁寧に。 技術も、人も、時間をかけて育てていけたらと、私たちは考えています。


