2022年4月1日より、いわゆる「パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)」が中小企業にも適用され、男女雇用機会均等法・女性活躍推進法・育児介護休業法等とあわせて、あらゆるハラスメントを防止するための措置を講じることが全ての企業に義務化されました。
どうも、マルワのシャドーサイドあれこれ担当です。
本日は、「そんなつもりはなかった……では許されません!お互いを尊重しあいましょう!」という感じで、職場内でのハラスメント防止について、改めてまとめてみた、的なブログになります(約10分で読めます。長くてすみませんが、大事なことなので最後まで読んでいただけると幸いです)。
当方法律「ド」素人のため、間違い等ありましたらご指摘いただけると幸いです。
ハラスメントの定義とは?
大前提として……職場内で嫌いな上司・先輩から言われたことやされたことは全部パワハラ(セクハラ)だ!と思っている人がいたら、それは間違いで、法令によるハラスメントの定義に該当しない場合はハラスメントとは認められない場合があります。
ということで、以下に職場で起きやすい「パワハラ」「セクハラ」「マタハラ・ケアハラ」の定義をまとめてみました(仕事に関係するハラスメントには最近何かと問題になっている「カスハラ(カスタマーハラスメント)」もありますが、そちらは次回のブログに書きます)。
参照:厚労省「明るい職場応援団」ハラスメントの基本情報 ハラスメントの定義
【パワハラ(パワーハラスメント)】
職場において行われる、次の3要件をすべて満たす行為。
- 優越的な関係を背景とした言動であること(雇用主と社員・上司と部下等、職場の上下関係を背景とした拒否・回避が困難な状況下における優越的な立場の者からの行為であること)
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えていること(社会通念上業務には不要な行為であること)
- 労働者の就業環境が害されること(行為を受けた者が身体的または精神的苦痛を受ける、正常な就労に支障がでること)
この場合の「職場」には、通常労働する場所(オフィスや工場)はもちろん、出張先や取引先、およびそれらへの移動中の車内等も含まれます。また、勤務時間外に行われる会社の飲み会や社員旅行等の行事の場も実質的に職務の延長とみなされるため職場に含まれます(セクハラ・マタハラ・ケアハラにおける「職場」の定義も同様です)。
「業務上必要かつ相当な範囲を超えていること」とは、次のような行為であって、一般的な価値基準で判断して業務上行う必要性がないと考えられるものをさします。
- 身体的な攻撃(殴る・蹴る・ケガさせる等)
- 精神的な攻撃(暴言、見せしめ、嫌がらせ、脅迫、威圧的な態度をとる等)
- 人間関係からの切り離し(職場内での無視、仲間外れ、不当にプロジェクトや部署から外す等)
- 過度な要求(達成不可能な業務を与える、業務に不要なことをやらせる、手当なしで休日や終業後に仕事をさせる等)
- 過小な要求(意図的に簡易な雑用しか与えない、全く仕事を与えない等)
- 個の侵害(容姿・性格・経歴などを揶揄する、プライベートな情報を流布する等)
※以下の「例」は一般的な職場で行われ、行為を受けた社員の就業環境が害された場合を想定しています。
例①:ミスした部下に対して、頭を叩く、容姿や出身校などを揶揄するようなイヤミを言う、大声で怒鳴る・机や壁を叩く・本や資料を投げつける等の威圧的な態度をとる→業務上必要かつ相当な「注意」「指導」を超えており、パワハラです。
例②:会社の飲み会や旅行等勤務時間外の会社行事への参加を希望していない部下に強要する、タイムカードを打刻させて勤務アップしたことにしてから(残業代なしで)居残りで仕事をさせる、休日勤務手当を支給せずに休日に仕事上の対応を強要する→適切な手当が支給されない状態で勤務時間外にそれらを強要することは、パワハラになり得ると同時に労基法に反する可能性があります。また、それらを拒んだことによって、職場で無視する・プロジェクトから外す・減給する等の不利益を与えることもパワハラになります。
【セクハラ(セクシャルハラスメント)】
職場(パワハラと定義は同じ)において行われる、次の3要件をすべて満たす行為。
- 労働者の意に反していること
- 性的な言動であること
- 労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されること
「性的な言動」とは、「性的な内容を尋ねる」「性的な関係を迫る」「体に触る」等のあからさまな行為以外にも、「性的な映像・画像を見せる・話を聞かせる」「女性らしさ・男性らしさを強要する、性別的役割分担を押し付ける」等の行為も含まれます。
性的な言動によって「不利益・就業環境を害される」とは性的な言動(攻撃)を受けたことによって、精神的に強い苦痛を感じて正常な生活や職務遂行ができなくなること、または性的な言動(攻撃)を拒んだこと・訴えたこと等によって、解雇・減給・望まない部署への転属などの不利益を被ることをいいます。
例③:女性にスカートやヒール靴の着用を強制する、男性の長髪やメイクを禁止する、「女性らしい・男性らしい」言葉遣いや所作を強制する→本人が望んでいないうえに、業務遂行上必要不可欠な事項ではないならセクハラになり得ます。また、それらを拒んだ社員を減給にする等の不利益扱いをすることもセクハラ(+パワハラ)になります。
例④:会社の飲み会で「断ったらプロジェクトから外す」と部下を脅してお酌させる・肩に手をまわした2ショット写真を撮る→明らかに業務上不要なセクハラ行為です。酔っていたから、とか、場を盛り上げるため、なんて言い訳は通用しません。
セクハラになるかならないかは、行為の回数や頻度は関係ありません(一回だけの行為でもセクハラになります)。また、行為者・被害者の性別も関係ありませんし、パワハラとは異なり優越的な関係によるものかどうかも関係ありません(後輩や同僚による行為も対象となります)。行為を受けた人の「意に反している」性的な言動であって、業務遂行上不要な行為はセクハラになります。
【マタハラ・ケアハラ(マタニティーハラスメント)】
職場(パワハラと定義は同じ)において行われる、「上司・同僚等からの、妊娠・出産したこと、または育児休業・介護休業等の利用に関する言動により、妊娠・出産した労働者や育児休業・介護休業等を申出(取得)した労働者の就業環境が害される」行為。
例⑤:妊娠を報告した社員・休業を申請した社員に退職を迫ったり嫌みを言う→当該社員に精神的な苦痛を与え、正当な権利を阻害する行為であり、明らかなマタハラ・ケアハラ行為です。
例⑥:休業中の社員に対して毎日頻繁に仕事のメールや電話をする・職場に呼びつけるなどする(過度な要求)、復職後の社員に対して故意に簡易な雑用しかさせない→休業を妨げる行為や、休業したことへのペナルティ的な対応をとることもマタハラ・ケアハラ(+パワハラ)です。
育児・介護休業法の改正により、妊娠が判明した社員に対して育休取得意思の確認をすること、他の社員に対する制度の説明や教育を行うことが全ての企業に義務化されています(休業する社員へのハラスメントが起きない職場環境の構築)。
育児や介護のために従業員が望むのであれば、適切に休業を与える、短時間勤務を認める等を実施するのは企業の義務であり、労働者の正当な権利として法律に定められています。仕事が忙しい・人手が足らない等といって休むことを認めないなんてことは許されませんし、育休や介護休の取得を理由に(休んだことを理由に)、不利益な扱いをすることも法律で禁止されています。
もちろん、「表向きは本人の意向」として、役職やプロジェクトから外れることを「半強制」する、あるいは、休業したのにそのような立場にいることを認めない雰囲気が蔓延していて、役職やプロジェクトから外れざるを得ないような職場環境を企業が放置するのもNGです。
企業におけるハラスメント防止策
学校における「いじめ」も職場における「ハラスメント」も、その名称のせいであまり加害者は罪の意識を持っていないことが多いような気がしますが、いずれも関係する法規制に触れていれば、れっきとした「犯罪行為」です。ハラスメント行為者(加害者)には刑事責任や民事上の賠償責任が課せられることがあります。
また、職場内でのハラスメントに対して、企業が適切な防止策を講じていなければ(安全管理義務を怠っていると判断されれば)、企業にも損害賠償責任が発生することもあります。
では、ハラスメントが自社で起きないように、どのような対策をしたらいいのか。厚労省の指針では、企業には次の4項目の対策の実施が要求されています。
企業のハラスメントに対する方針を定め、社員に周知・啓発すること |
ハラスメントを受けた場合の相談体制を整備すること |
相談したことを理由に相談者を不利益扱いしないこと、相談者のプライバシーを保護すること |
ハラスメントが発生した場合に適切な措置を講じること |
中小企業では完璧な対策の実施は現実的には難しいかもしれませんが、例えば、
- 就業規則にハラスメント行為禁止を定め、違反者への罰則を規定する
- 定期的に社員にアンケート調査する、ハラスメント防止研修を実施する
- 相談窓口や担当者の設置、相談を受けた場合の対応マニュアル作成
- 相談者のプライバシーや権利を保護することを宣言する(相談を理由に解雇・減給等をしない、相談者の名前を他の社員に口外しない等)
- ハラスメントが起きてしまった場合、事実確認を実施して行為者への指導や懲罰、再発防止のための研修等を行う
等を実施して、ハラスメントが起きない・ハラスメントを許さない職場環境を構築し、維持しましょう。
従業員の心身の安全を守ること(安全管理)は企業の責任であり、義務です。
自分とは違う(弱い)立場の人を思いやる気持ちがあるか・ないか
基本的にハラスメントと呼ばれる行為を「する側」は強者(権力大)、「される側」は弱者(権力小)です。
強者と弱者という関係であっても、良好な関係性が築けていればハラスメントは起きにくくなりますが、良好な関係性を築くためには、強者の理屈で考えるのではなく、弱者の立場への配慮(思いやり)が不可欠です。
これくらいハラスメントではないでしょ?なんでもかんでもハラスメントとか言われるこっちも迷惑だ……なんていうは強者の理屈であって、そこには弱者の立場への思いやり(配慮)が決定的に欠けています。少なくとも、業務上絶対に必要なことではないのであれば、望まないことを強制してはいけません。
一方で、仕事をする上で必要な範囲内での叱責や指導、普通のコミュニケーションまでも、なんでもかんでもハラスメントだ!としてしまうのも間違っています。ハラスメントとされてしまうことを恐れるあまり、上司や先輩が適切な指導もできなくなってしまっては本末転倒です。
また、弱者という立場を濫用(悪用)して、自分(たち)だけが得をすればいい、という考え方も間違っています(そう思った時点で弱者と強者が入れ替わってしまいます)。
そのあたりの線引きをきちんとするためにも、法令や定義を、何よりも相手のことをちゃんと理解しましょう!
……なんてことを書いている最中の私の脳内DJのパワープッシュは、Glasgow音楽シーンの重鎮(なのに普通に近所の公園にいて話しかけてくれそうな人たち)Teenage Fanclubの初期大ヒット曲、“The Concept” でした。
サビで連呼される、
I didn’t want to hurt you
作詞:Noman Blake, Gerald Love, Raymond McGinley
という歌詞のように、“傷付けたくなんてなかった(そんなつもりはなかった)” のに、結果的に相手を傷付けてしまっていた、ということもあると思います。
アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)がかかっていないか、「強者の理屈」になっていないか、よく考えないといけないですね(たとえふざけていただけであっても、そんなジョークは笑えない、とならないように)。