ここ数年は新型コロナ感染予防として自粛されていた会社の飲み会や旅行が、ここにきて再開されてきているようです。
それらのイベントが好きな人には嬉しいことですが、そういう行事が苦手(嫌い)な人にとってはせっかくなくなってホッとしていたのに……となりそうです。
ということで、「職場の常識、再点検シリーズ」第三弾は、職場でのストレスの原因になりやすい「会社の飲み会や社員旅行について」をQ&A形式でまとめてみました。
結論から言ってしまうと、
「業務じゃないことを強制してはダメ、絶対。飲み会や社員旅行にも法令は適用されます!」
という内容になります。
では、本編スタート!
(あ、マルワのシャドーサイドあれこれ担当です)
以下はあくまでもネットのお悩み相談などによく出てくるような一般論としての内容になります。当社を含めた特定の企業についての内容ではありません。ご了承ください。
Q.1 社員の親睦を深めるためだから、会社の飲み会や社員旅行は全員強制参加で問題ないよね?
A.1 飲み会や旅行が業務ならOK、そうでないならNG。
飲み会や旅行を会社の業務として行うのであれば、業務命令として参加を強制することは可能です。
ただし、業務となるためには、その飲み会や旅行が「業務としての性質(内容)を含んでいると客観的に判断できること」が大前提であり、そのうえで、次のいずれかに該当していなければなりません。
(ア)出勤日の就業時間内に行われ、かつ、その時間分の適正な給与が支給される
(イ)就業時間外や休日に行う場合、労使間で時間外労働に関する協定が締結されており、適正な時間外労働手当(残業代や休日出勤手当)が支給される、または代休が付与される
つまり、通常の業務や出張などと同じ扱いであれば業務といえます※1。
※1 勤務時間外に行われる飲み会の場合、例えば、「新しい経営体制の社員への発表のための社員総会を行い、そのまま懇親会を行う」という場合などであれば「業務としての性質」が認められ得ますが、「業績を上げるためのコミュニケーションとして飲み会が必要だ!」というような目的での飲み会では業務として認められません。また、飲み会などが終了するまでの時間分の割増賃金(残業代)が支給され、かつ費用や会場までの交通費が全額会社から支給されるのであれば「業務」といえます。
一方で、上記の条件に該当しない場合は、業務ではないため参加を強制することはできません。
できるだけみんなに参加してくれるよう呼び掛けるだけにとどめ、参加したくない・参加できない人を無理に参加させるのはやめましょう。
当然、業務ではないので、参加しなかったことを理由に人事評価を下げるなどの不当な扱いをすることもNGです(パワハラになる可能性があります)。
Q.2 うちでは飲み会で新人が余興をするのが伝統。それなのに、新人から「それ、パワハラですよ」と言われてしまった。本当にパワハラ?
A.2 余興の強制はパワハラとされる可能性があります。
「パワハラ」とされるには、次の3要件をすべて満たしている必要があります。
(ア)職場の地位や優位性を利用した言動であること
(イ)業務遂行上必要かつ適切な範囲を超えた言動であること
(ウ)行為を受けた者に身体的、または精神的苦痛がある、あるいは労働環境が悪化すること
ハラスメント防止に関する法令での「職場」には通常勤務する職場以外にも、会社の飲み会や旅行の場も含まれます(業務としての飲み会か社員有志の飲み会かは関係ありません)。
ということで、「Q.2」の場合、先輩(上司)が、業務上必要ではない余興を、本人の意思に反して要求することで、受けた本人が嫌な思いをしているのであればパワハラになります。嫌がる社員に余興を強要してはいけません。強要とまでは言えないような「無言のプレッシャー(同調圧力)」も、場合によってはパワハラとされる可能性はあります。
また、「余興」以外にも次のようなことを本人の同意なく行う・強要することもハラスメントになる可能性があります。
- 飲酒やお酌の強要
- (酔った勢いでのふざけ半分でも)叩く・蹴るなどの暴力行為
- (酔った勢いでのふざけ半分でも)差別・人格否定・侮辱を含む暴言
- コスプレ、性別を強調するような衣服着用の強要
- プライベートな情報を開示することの強要、または勝手に開示する
- 本人の許可なく不必要に体に触れる
- 写真や動画を撮影しSNSなどに投稿する
場を盛り上げるため、とか、一部の人が楽しい思いをするためだけに、本人が望まないことを強要するのは絶対にやめましょう。
Q.3 一応参加は自由といわれるけれど、実際には自分以外はみんな参加するし、参加しないと影で文句を言われるらしい……断るのは悪いこと?
A.3 業務でないなら自分の意志が最優先されるべき。
「自由参加」であるならば、たとえ自分以外の全員が参加するとしても、断って差し支えないことです。
たしかに、自分以外のみんなが参加するのであれば、かなり気まずいと思います。
とはいえ、どうしても行きたくない(または、行けない)のであれば、無理せずにきちんとその旨を伝えるようにしましょう。
会社の飲み会や旅行でトラブルになりやすいのは、このように一応「自由参加」でも、「全員参加が当たり前」という状態になっている場合です。
断りたいのに断れない…… なんだか断ろうとしている自分が悪い事をしている気になる……
人によっては断るのに相当な勇気や覚悟がいることもあります。
どうしても断りたいがために、それっぽい理由を考えたり、無理やり用事を作ったり、なんて苦心している人もいるようです(ネット調べ)。
そんな状況は心理的安全性の低い職場環境・人間関係かもしれません。
もし、このような状況が常態化していて、精神的な苦痛から社員が休職または退職した場合、会社の管理責任を問われる可能性もあります※2。
企業としては、社員同士であっても、無理強いしないように適切な指導・教育をしておきましょう。
※2 2019年改正の労働施策総合推進法により、事業規模に関係なく「すべての事業主」には職場でのパワハラやセクハラなどに対する防止措置を講じることが義務付けられています。
Q.4 業務として研修旅行を予定しているが、当日有給で休みたいという社員がいる。有給を却下して旅行に参加させてもいいよね?
A.4 有給は原則社員の希望する日に与えなければなりません。
社員は会社からの業務命令には原則従わなければならない一方で有給休暇取得の権利もあります。
そして、会社は原則社員の希望通りに有給休暇を与えなければなりません(労基法第39条5項)。
会社側には「時季変更権」が認められていますが、それはあくまでも「事業の正常な運営を妨げる場合」に行使できる権利※4です。
原則として社員の自由な請求(希望)が優先されなければなりません。
※4 例えば、同一部署の社員全員が同じ日に有給を申請し、全員休むと事業が停止してしまう場合などは「事業の正常な運営を妨げる」といえ、重ならないよう別の日に休むことをお願いすることができます。ただし有給そのものを認めないことはできません。
研修旅行の内容や重要度にもよるとは思いますが、一般的には社員が数名程度参加しないことをもって「事業の正常な運営」が妨げられるとは考えにくいので、有給の時季変更権は認められない可能性が高い気がします。
一方の休みたい社員は、直前になって「有給で休みます」と言われても会社は困ってしまうので、できるだけ早めに相談するようにしましょう。
Q.5 社員旅行代の積立を毎月給与から天引きしているが、旅行が中止になった場合でも返金しなくていいよね?
A.5 中止はもちろん、社員都合での欠席であっても返金しなければいけません。
旅行代積立金は社内預金の一種とされます。
社員が会社に「預けているお金」なので、旅行が中止になった場合など積立金を使用しなかった場合は、全額返金しなければなりません(労基法第18条5条)。
旅行中止以外でも、何らかの理由で旅行不参加の社員や旅行前に退職した社員がいる場合は、該当者に預かった全額を返金しなければなりません。
社員旅行を実施しない企業が増えているようですが(ネット調べ)、昔の名残で、旅行の予定はないけど旅行代積立は継続している、ということもあるかもしれません。
最終的に全額返金されるのであれば、それでもいいかもしれませんが、全く予定がないならいったん積立をやめてもいいのではないかと思います。
なお、旅行積立金は「自由参加」の旅行に限り費用として使用されるものであり、業務としての旅行には使用できませんし、社員旅行以外に使用することもできません。
仕事をするうえでは付き合いが大切!
沢山の人が参加したほうが楽しいし親睦も深まる!
という考えも、それ自体は正しいと思います。
飲み会や旅行によって、普段の職場では見ることのない以外な一面が見えたり、普段あまり接点のない社員同士で以外な友情が芽生えたり、という事もあると思います。
ですが、人にはそれぞれの事情や嗜好があります。
親睦のための行事で、誰かが辛い思いをしてしまうのはお互い不本意だと思います。
場合によっては「ほどほど」の距離感でいることも大切です。
SDGsの理念は「誰一人取り残さない」ことですが、
「誰一人取り残さない」とうのは、
“Consideration for Others(他人への思いやりをもつこと)” ですよね。
……毎度の長文で失礼しました。
そんなこんなを考えている私の本日の脳内DJの本日のパワープッシュは、小沢健二の名曲 “僕らが旅に出る理由” です!
私たちの住むこの世界には、人それぞれの「旅に出る理由」「飲みたい理由」「食べたい理由」「遊びたい理由」があります。
反対に「旅に出たくない理由」「飲みたくない理由」「食べたくない理由」「遊びたくない理由」もひとそれぞれにあります。
お互いの価値観や生活スタイルなどを尊重しつつ、チームの「和」を高めていけたらいいですね。
本日はこの辺で。