職場の常識、再点検 part.2 ~定額残業代制について~

先月の「会社の中での当たり前、それってあり?なし?を「職場の常識、再点検」としてシリーズ化してみました(何回続くかわかりませんが……)。今回は知っているようで案外勘違いしている人も多そうな「定額残業代制(みなし残業制)」についてのブログになります。

新年度がはじまり、就職先が定額残業代制を導入している、または転属や役職が変わったことで定額残業代制となった、という人もいると思います。殆どの人(企業)は正しく制度を導入・運用していると思いますが、中にはこんな風に思っている人(こんなことをしている人)もいるかもしれません……

あるある事例①自分は定額残業代制だからどれだけ残業しても関係ない!といって、ダラダラと残業や休日出勤をする(または作業の効率化よりも自分のやりやすさを優先する)。

あるある事例②部下は定額残業代だからどれだけ残業させても人件費に影響しないからオケッ!といってあれもこれもと業務を与える(過重な業務を与える)。

あるある事例③定額残業代制で社員と雇用契約しているから何時間残業があっても残業代は変わらない(超過分を払わなくていい)。社員の労働時間を正確に把握する手間が省けて助かるわ~

上記事例はどれも「間違い」です!

ということで、みなさま知っていることばかりかとは思いますが、トラブル防止のためにも、今一度、確認の意味でこのブログをお読みいただけると幸いです(約10分で読めます)。

最初に結論を書いておきますと、「定額残業代制は『働き放題(働かせ放題)プランではありません!」ということです。

 

あ、マルワのシャドーサイドあれこれ担当です。

当方、法律の専門家ではありません。専門家の書いた書籍やブログ等を複数読んだうえで書いておりますが、間違い等ありましたらご指摘いただけますとこれまた幸いです。なお、本ブログ記載内容はネットのお悩み相談などによく出てくる一般的な事例であり、当社を含めた特定の企業のことではありません。ご了承ください。  

 


そもそも、「定額残業代制(みなし残業代制、固定残業代制とも言います)」とはどういう制度かというと……

実際の時間外労働残業)の有無にかかわらず、予め労使間で同意した一定の時間外労働分の割増賃金(残業代)を固定して支払う制度

です。

労働基準法には「定額残業代制」について特に規定はありませんが、過去の判例では「定額残業代制」そのものには(適切に導入・運用されている限りにおいては)違法性はない、と判断されています。

では、なぜ定額残業代制を導入する企業があるのか(どんなメリットがあるのか)というと……

・企業側のメリット:人件費の把握、管理がしやすい(残業代による人件費の変動が少なく、予算立てや資金管理がしやすい)、時間外労働の抑制が期待できる(定額時間を超える長時間残業が低減される)

・労働者のメリット:実際の残業の有無にかかわらず一定額の割増賃金が支給される

といったようなことが挙げられます。

一方、定額残業代制は正しく導入・運用しないと次のようなリスク(デメリット)があります。

・企業側のリスク:適切な導入・運用でない場合に定額残業代制が無効とされる可能性がある(追加の残業代支払いが発生するリスク)、定額働き放題制だと勘違いしている社員による「長時間残業」または過重な労働負荷が発生した場合に管理責任を問われる可能性がある

・労働者のリスク:定額の割増賃金相当分を超えた時間外労働について残業代が支払われない可能性がある基本給が低く設定される可能性がある

デメリット(リスク)を低減または回避するためには、次の1~3の定額残業代制の要件が満たされているか確認しておきましょう(満たされていない場合は適切に制度が運用されていない可能性があります)。

 


1.定額残業代の適用について労働者と合意していること

そもそも、労働組合(ない場合は過半数以上の社員の合意を得た代表社員)と企業の間でいわゆる「36協定(時間外労働についての協定)」が締結され、労基署に届出ていない限り、残業させる(する)こと自体違法となります。

そのため、労使間で36協定を適切に締結したうえで、定額残業代制が適用されることを就業規則などに定め、雇用契約や労働条件合意書(名称は企業により異なることがあります)によって対象本人と合意する必要があります(本人の合意なしに企業側が一方的に押し付けることはできません)。雇用契約・労働条件合意書には、次のような事項を含めておきます。

  • 定額残業代制が適用されること(特定の部署や役職のみに適用される場合はその条件)
  • 何時間分相当の残業代として定額を算出しているのか、休日出勤や深夜労働は定額に含まれるのかなど定額の適用範囲と算出根拠
  • 定額残業代を「〇〇手当」名目で支給する場合はその名称(その手当が定額残業代であることがわかること)
  • 定額残業代として想定した時間を超えた時間外労働(休日出勤、深夜労働含む)について、超過分の残業代が別途支給されること

また、定額として支給する額は、「想定する時間外労働時間×基本給を時給換算した額に所定の割増率を乗じた額(一般的な残業なら1.25倍またはそれ以上)」でなければなりませんし、定額残業代として想定する残業時間の上限は、一般的に36協定の上限である「45時間/月」までとしなければなりません。

例えば、時給換算した基本給が1500円だった場合で、想定する残業時間は20時間/月という場合、定額残業代は37500円(1500円×1.25倍×20時間)となり、それ以下の金額で20時間相当分の定額残業代とすることは認められません

※この例の場合で、想定残業時間を20時間/月としながらも定額残業代が26250円となっていた場合、実際には14時間相当分にしかならないため14時間を超えた残業分から別途残業代が支給されなければなりません。

労働者側は定額残業代制が労働条件となっていること、および、定額残業代についての規定内容(何時間分の残業相当として支給されるのか)を正しく認識しておく必要があります

 

2.通常の賃金と定額残業代が明確に区分されていること

定額残業代を基本給の中に含める場合や、「〇〇手当(営業手当、役職手当等)」というように別の名称で支給する場合は、就業規則や給与規定などに定額残業代がどのような名目で支給されるのか特定(明示)しておきましょう(社員は労働条件合意書などと併せて基本給や支給額、支給時の名称などを確認しておきましょう)。

基本給に定額残業代を含む場合、定額残業代分を引いた基本給が定額残業代制ではない場合と比較して低く設定されていることもあるようです(残業代を固定で支払う分企業の人件費負担は増加するため、基本給を低くしておく)。一見するとそこそこいい額の基本給のようでも、「定額残業代を引いた実際の基本給を時給換算した額」が地域の定める最低賃金以下になっているようなら、法令違反の可能性があります。

「〇〇手当」全額ではなく、手当の一部として定額残業代が支給される場合、何時間相当分を定額として支給しているのかが不明確になることがあり、そのような場合には定額残業代制の適用が無効とされることもあるようです(「〇〇手当」として支給していても、それには適切な残業代が含まれていないと判断され、追加で実際の残業時間相当分の残業代の支払いが命じられた判例もあるようです)。

そうならないためには、「基本給〇〇円(うち定額残業代〇〇円)」として明示する、「〇〇手当」と「定額残業代」はわけて支給する、などのように定額残業代がいくらになるのか(何時間相当分として支給しているのか)を明確にしておくことが望ましいです。

また、定額残業代の想定する時間を超えた時間外労働や休日出勤、深夜労働等があった場合には、それらについて支給される残業代と定額残業代は区別しておきます。

要は、当人だけでなく、第三者が客観的に見た場合でもそれが定額残業代として支給された金額であることがわかるよう区分する必要がある、ということです。

 

3.定額残業代を超える時間外労働等については別途残業代を支給すること

定額残業代制が違法ではないとされる根拠は、定額(固定)であろうがなかろうが、「残業した時間分の割増賃金は当然支給されるものである」という大前提があるためです。つまり、定額残業代制で想定した時間(残業代)を超える残業があった場合、超過分は追加で支給されなければならない(社員側からすれば超過分は申請・請求できる)ということになります。

仮に定額残業代として月20時間の残業を想定していた場合で、実際には30時間残業した、という場合、定額残業代に加えて、別途10時間分の残業代が支払われることになります。

そのため、定額残業代制の社員であっても残業時間(労働時間)は正しく管理しなければなりません(労働安全管理の観点からも労働時間の適切な管理は必須です)。

冒頭のあるある事例①~③のように、どうせ定額残業だから、といって適切に残業(労働時間)を管理しない、ということは、つまり、超過分の残業代は支給しなくていい(支給されなくてもいい)ということとイコールであり、労使双方にとって適切な状態ではありません。そうならないよう、社員側も定額残業代制について正しく認識して行動し、会社は社員が正しく理解するよう教育・指導しましょう。

 

なお、「定額残業代として想定する時間を超えた時間分についての残業代の追加支給はしない」等と就業規則に規定していた場合であっても、それは労基法に違反した規定なので認められず(定額残業代制自体が無効となります)、超過分は追加支給しなければなりません。 

適切に制度を導入・運用していない場合、未払い残業代として過去に遡って支払いを命じられたり、未払いの原因によっては(悪質な場合は)付加金の支払いを命じられたりする場合もあります。

 


……毎度毎度の駄文長文失礼しました。

定額残業代制に限らず、制度や仕組みは適切に運用するようにしましょう!

前回のブログにも書きましたが、よくわからないから、とか、今までずっとこうだったから、といった理由のみで、言われるがままに行動・判断したり、自分が言われてきたことをそのまま部下や後輩に伝えてしまったりするのは、よくありません。

まずは、「正しいことを正しく知る」こと、それがエシカルな行動の第一歩ですね。

 

そんなこんなな私の本日の脳内DJのパワープッシュはイギリスの伝説的インデ―レーベル、Sarah Rrecordsの看板バンドのひとつにして、ガールズポップの金字塔的バンド、HeavenlyのパンキッシュかつメロディアスでPOPな名曲 “Shallow(作詞:Amelia Fletcher)” です!

今回のブログも専門家ではないので(と毎回言い訳をしてしまいますが)、「矢継ぎ早に出てくる言葉」は「浅い(Shallow)」かもしれませんが、「言えること、言うべきこと」はこんな感じで、浅いけれども「それでも真実」です(という感じで半ば強引にShallowの歌詞にからめてみました)。

※太字斜体部分は歌詞にからめていますが、歌詞をそのまま和訳したものではありません。

Shallow, Shallow, Shallow, Shallow……” と繰り返されるアメリアからのメッセージを真正面から受け、本日はこの辺で。

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