「ソーシャルディスタンス」
新型コロナウイルス感染拡大以降、この言葉はすっかり生活の中に定着しましたね。
よ~く考えると、なんか変なワードですが(ソーシャルディスタンスというと「社会的分断」って感じがしませんか?)、ソーシャルディスタンスの定着によって、様々なモノやコトの「間隔(距離感)」の大切さを再確認した人もいるのではないでしょうか?
どうも、マルワのシャドーサイドあれこれ担当です。
本日は、「物理的な間隔だけでなく、時間的な間隔もお忘れなく!」という感じの勤務間インターバルについての小話です。
あくまでも素人が書いた内容なので、細かいところはご容赦を。また間違い等ありましたらご指摘いただけますと幸いです。
2019年に施行された、いわゆる「働き方改革関連法」に基づき、「労働時間等設定改善法」が改正され、終業(勤務アップ)から次の始業(勤務開始)までの間に、労働者の「一定時間の休息」を確保することがすべての事業主(企業)の努力義務として規定されました。
これを「勤務間インターバル」と呼び、働く人の睡眠時間や生活時間(仕事以外のことをするための時間)を確保し、心身の健康を維持することを目的としています(弊社も実施しております)。
「一定時間の休息」の部分がやや曖昧ですが、国は「9-11時間」程度の間隔を空けることを推奨しています。また、一定時間の休息は「連続したもの」でなければいけないとされています(5時間休息→4時間勤務→5時間休息 のようなとりかたはNG!)。
勤務間インターバルを規定している / していないで、例えばこんなことが起きるかも…
勤務間インターバルを就業規則に定めていないX社に勤めるAさんと、規定しているY社に 勤める Bさんがいます。X社もY社もともに8時半始業で17時半終業です(AさんもBさんも通勤時間は片道約1時間)。
ある日、急ぎの仕事やトラブル対応が重なって、AさんもBさんも深夜0時まで残業をしました。
Aさんは次の日も8時半の始業に間に合うように出社しなくてはいけません。1時間かけて自宅に帰り、それからご飯を食べたりお風呂に入ったりして深夜3時に就寝。翌朝6時には起床して準備をし、7時には自宅を出ました。
そのため、寝不足が祟って次の日の仕事ではミスを連発。さらに悪いことに、毎日のように遅くまで残業する日々がその後数か月も続いた結果、Aさんは身も心もボロボロになってしまい、ついには休職することに…
X社はそもそも残業に対する意識も会社全体として低く、Aさん以外の殆どの社員も同じような働き方をしていました。過労死ラインを超すような残業も決して珍しくなく、社員がすぐに辞めてしまいます…
一方のBさんの働くY社では就業規則に「次の勤務までに少なくとも10時間の継続した休息時間を与える」こと、「休息時間と所定労働時間が重なる部分については重複する時間を働いたものとみなす」ことを定めています。
深夜0時まで残業したBさんは次の日は朝10時に出社すればOKです。就寝時間は遅くなりましたが、翌朝は8時まで睡眠することができ、重複時間分は働いたことにもなっているので、その日は10-17時半(うち1時間は昼休憩)の6時間半働けば勤務アップ!忙しい中でも、ある程度疲労の蓄積を回避しながら仕事に励むことができます。
Y社は社員全員が勤務間インターバルを意識して働いており、また、企業として残業削減の取組(働き方改善)にも力を入れています。そのため職場の雰囲気&社員の定着率も、ついでに売上もグンとアップしていきました。
…かなりデフォルメ化した(雑な)例ではありますが、勤務間のインターバルが適切に取られている企業とそうでない企業ではX社とY社のような状況が実際に起きているようです。
どちらが社会的な責任を果たしている企業かは、考えるまでもないですよね!
勤務間インターバルは(今のところ)「努力義務」なので、絶対に定めなければいけないものではありませんが、次のようなメリットがあります。まだのところは検討してみてはいかがでしょうか。
- 社員のモチベーションアップと健康維持(社員定着率アップ、社員満足度アップ)
- 自社の働き方を変えるキッカケになる(業務効率改善、残業に対する意識の変化)
- 企業イメージアップ(社内外からの評価上昇、就職希望者へのアピールポイント)
- 制度導入のための環境整備にかかる費用について「働き方改革推進支援助成金(
労働時間適正管理推進コース→勤務間インターバル導入コース)」制度による公的な支援を受けることができる※(2021年度の交付申請は2021年11月30日まで)
※労務管理のための機器やソフト、作業効率化のための設備や機器の導入等にかかる費用について一定額の支援を受けることができる制度があります。コース名の間違いをご指摘いただきましたので修正しました。なお、助成金申請前に社労士さんや各都道府県の労働局にご相談いただいたほうがよいようです。(更新:2021.05.15)
勤務間インターバルを規定する際には、次のようなことを決定しておくとよいでしょう。
まずは、自社の実態(残業量等)を把握し、インターバル時間を設定します。ただし、インターバルが9時間未満では長時間労働改善にはあまり意味がないので最低でも9時間に設定しましょう(9時間から10時間とする企業が多いようです。また、9時間以下では上記の公的助成金を申請できません)。
次に(ここ重要!)、休息時間と所定労働時間が重複する部分の扱いを決定します。上記例のY社では重複時間分は労働したものとみなしています(この場合、10時-17時半の勤務でもフルで働いたことになります)が、重複時間分を繰り下げることも可能です(繰り下げの場合、10時-19時まで勤務してフルで働いたことになります)。あるいは、深夜残業を禁止するような対応も可能です(8時半始業で10時間のインターバルとする場合、22時以降の残業を禁止していれば自ずとインターバルがとれます)。
そして 、勤務間インターバルによって始業時間のずれが発生する場合の申請手順や時間の管理方法を決定します。通常の残業申請と同じ手順にするのか、勤務間インターバル専用の申請手順を採用するのか、重複時間を会社がどう把握して管理するのか(給与計算時に漏れないようにどう管理するか)…etc
これらについてきちんと決めておかないと制度が「形骸化」してしまいかねないので、労使双方にとって負担にならない、運用しやすい方法をしっかり議論したうえで決定しましょう。
あとは、決まった内容を就業規則に定め(就業規則の改定)、全社員に周知します。
そして、実践あるのみ!
…ですが、せっかくインターバルを導入しても、次のようなことが起こり得てしまうのが現実でもあります。
勤務間インターバル導入済みで、社員や会社の意識も高いY社において、Bさんは規則に従ってちゃんと申請し、10時間のインターバルをとって働いていますが、別の部署のCさんは、業務内容や自身の責任などから、深夜まで残業しても正しく申請せずに次の日は普通に8時半に出社して仕事をしてしまう…
特定の部署や特定の人に仕事が集中しやすい中小企業では、特にこのような事態が起きやすくなります。
そういった事態を回避するためには、全員の意識を変えるように会社が「組織的に」ちゃんと指導していくこと、仕事の割り振りや人員配置を見直すこと、IT機器やサービスを導入して業務の効率化を図ること、等も勤務間インターバル制度に併せて実施していきましょう。
善意と使命感が前面に出過ぎて、サービス残業を含む長時間労働や休日出勤を「当たり前」と思ってしまっている人も多いのが勤勉大国ニッポンですが、そのせいで、社会全体に「歪み」が生じているのも事実です(以前のブログにもこのあたりのことは書いているので併せてお読みいただけると幸いです)。
残業そのものを減らす努力(仕組みや体制の変革)が大前提ですが、どうしても避けられない長時間労働が発生してしまった場合に適切な休息時間が確約されることで、(多少は)歪みは解消していくのではないでしょうか。
バランスのよい生活を目指すことは持続可能な社会の実現にも繋がります(つまり、SDGsです)。
ソーシャルディスタンス(物理的な距離を空ける)だけでなく、労働と労働の間のディスタンス(勤務間インターバル)も、と~~~~っても大事です!
とはいえ、物理的&時間的に距離を保つことによって、ココロの距離が必要以上に離れてしまっては、持続可能な社会にはなりません。
前述のY社でのBさんとCさんの例でも、ちゃんとインターバルをとるBさんのことを快く思わない人もでてくるでしょう(特に昔からの働き方を変えられない人たちからは疎まれるかもしれません)。
逆にちゃんと申請せずに残業したりインターバルを無視したりするCさんのことを不快に思う人もでてくるかもしれません。
結局は、法律で(強制的に)働き方を変えようとしても、働いている人たちの関係性がちゃんとしていないと、機能しないのではないでしょうか。
疲労の連鎖と負の連鎖はできるだけ早く断ち切らないと!(ってなんかのCMでも言ってましたよね)
コメント
長文コメント失礼します。
わかりやすい説明、ありがとうございます!我々社労士でもここまでわかりやすく説明する人は少ないと思います。勉強になりました!
そして最後の「結局は、法律で(強制的に)働き方を変えようとしても、働いている人たちの関係性がちゃんとしていないと、機能しないのではないでしょうか。」の部分、とっても大切だと思います。勿論法律は守らないといけませんが、それよりも会社にとって、働いている方にとって大切な事がありますもの。
さて、本文中に「・制度導入のための環境整備にかかる費用について「働き方改革推進支援助成金(労働時間適正管理推進コース)」制度による公的な支援を受けることができる※(2021年度の交付申請は2021年11月30日まで)」とありますが、助成金のコース名称について、正しくは(勤務間インターバル導入コース)になるかと存じます。
また、本助成金を受けるためには様々な要件を満たす必要がありますので、検討される方は必ず「事前に」社会保険労務士、もしくは各都道府県労働局にお問い合わせいただいた方がよろしいかと思います。
長田様
コメントとご指摘ありがとうございます!
該当箇所を修正いたしました。
拙い内容のブログではありますが、プロの方にご指摘いただけて幸いです。
どんなに素晴らしい制度や法による規制でも、結局のところ、それを利用する人と人(または会社と労働者)の関係性が一番大事なのかな、と思っております。