こんにちは。オンデマンド機担当のOです。
あなたは最近、なんとなく手に取ったチラシや、気づいたら読み込んでいたパンフレットに出会ったことはありませんか? じつはそこには、「仕掛学」と呼ばれる考え方が隠れているかもしれません。
仕掛学って何だろう?
仕掛学とは、大阪大学の松村真宏教授が提唱した学問で、人が自然に「やってみたい」と思える環境や工夫を設計する研究分野です。強制でも命令でもなく、ちょっとした仕掛けによって行動を自発的に促す——というのが基本的な考え方です。
有名な例として、階段をピアノの鍵盤に見立てた「ピアノ階段」があります。踏むと音が鳴るように装飾されたその階段は、エスカレーターより多くの人が歩いて使うようになったといいます。「健康のために階段を使いなさい」と言われるよりずっと効果的ですよね。
仕掛けの3つの条件:公平であること・行動を引き起こすきっかけがあること・仕掛ける側とされる側の双方に目的があること。この3つが揃ったとき、人は気持ちよく動いてくれます。
印刷物にも「仕掛け」がある
さて、私たちが日々向き合う印刷の仕事。チラシ、パンフレット、名刺、ポスター——これらは単に「情報を伝えるもの」ではありません。じつは優れた印刷物には、読む人の行動をそっと誘導する「仕掛け」がたくさん詰まっています。
●視線の誘導
大きな写真や矢印、余白の使い方で、読む順番を自然に設計する。
●手触りで止まらせる
エンボス加工やマット感のある紙は「触っていたい」という感覚を生む。
●形で行動を促す
ミシン目のクーポンや折り込み構造は、「切り取る」「開く」という行動を自然に引き出す。
たとえばミシン目の入ったクーポン付きチラシ。あの小さな切り取り線は、「保存しておこう」「使ってみよう」という気持ちを生み出す立派な仕掛けです。あるいは、特殊な折り方をしたパンフレット——開くたびに新しい情報が現れる構造は、読む人の好奇心を次のページへと引っ張ります。
「思わず手に取ってしまう」「なぜか最後まで読んでしまう」——その「なぜか」の部分に、印刷の職人技と仕掛学の知恵が宿っています。
デザインと印刷技術が合わさるとき
印刷の仕事において、仕掛けを意識するとは何でしょうか。それは単に「きれいに刷る」ことを超えて、受け取った人がどう感じ、どう動くかを考えることです。
紙の重さ、色の明暗、フォントの大きさ、折り方——そのひとつひとつが、受け取った人の無意識に語りかけます。仕掛学の言葉を借りれば、これはまさに「公平で、行動を誘い、双方にとって意味のある仕掛け」の設計です。
デジタルが主流の今、紙の印刷物が生き残る理由のひとつは、この「手触りのある仕掛け」にあるのかもしれません。次に印刷物を手にしたとき、「なぜ私はこれを手に取ったのだろう?」と、少し立ち止まって考えてみてください。きっと、どこかに小さな仕掛けが見つかるはずです。

