著作権譲渡の際に気をつけることは? ~ちょっとした著作権の話⑥~

「印刷会社の法律素人社員が著作権について調べてみた」シリーズ第6弾!

チラシの作成をデザイン会社に発注した場合、チラシそのものだけでなく編集データももらえるもの、と思っている人もいるかもしれませんが、事前の契約にデータ納品と著作権譲渡条項が含まれていない限り、基本的にはデータはもらえません。

チラシのデータをアレンジしてポスターやショップカードを作りたい、WEB広告も作りたい……そのために編集データが必要、という場合は著作権譲渡契約を締結して権利を譲ってもらう必要があります。

ということで、今回は印刷会社ならでは?のテーマとして、「著作権を譲る・譲ってもらう場合に注意すべきこと」をまとめてみました(約10分で読めます)。

 

あ、マルワのシャドーサイドあれこれ担当です。

毎度になりますが、当方法律ど素人なので、本ブログに記載していることが必ずしも法的に正確であることを保証するものではありません。ご了承ください。


著作権には様々な権利が含まれる

本題の前に、そもそも「著作権」とひとことで言っても、実は様々な権利の総称であり、大きくわけると「著作者人格権」と「著作権(財産権)」の2つ※1、さらにそれぞれに複数の権利が含まれています。

※1 これら2つは著作者本人に発生する権利ですが、複数名がかかわって作られる映画や音楽などの著作物の場合、著作者以外で著作物の制作に重要な役割を果たしている者(演奏者や歌手、出演者、制作会社など)に「著作隣接権」という権利が生じます。著作隣接権についての詳細は文化庁「著作隣接権」をご参照ください。

 

著作者人格権

公表権著作物を公表する・しないを決める(公表する場合、いつどのように公表するのかを決める)権利
氏名表示権著作物を公表する際に著作者名を表示する・しないを決める(表示する場合どのような名称で表示するのかを決める)権利
同一性保持権著作物の内容や作品名を勝手に改変されない権利

著作権(財産権)

複製権印刷、模写、録音(録画)などで著作物を複製する権利
上演・演奏権著作物を上演(演奏)したり、上演(演奏)を公に伝達する権利
上映権著作物を公にスクリーンやディスプレイに映写する権利
公衆送信権著作物を公に送信、放送する、また、公衆送信された著作物を端末などを使って伝達する権利
口述権著作物を口頭で公に伝える権利
展示権美術の著作物(実物)を公に展示する権利
頒布権映画の著作物の複製物(DVD、ブルーレイなど)を販売・貸与する権利
譲渡権映画以外の著作物の原作品又は複製物を譲渡する権利
貸与権映画以外の著作物の複製物を貸与する権利
翻訳・翻案権著作物を翻訳、編曲、変形、翻案等する権利(二次的著作物を創作する権利)
二次的著作物の利用権著作物を原作品とする二次的著作物の利用について、二次的著作物の著作者と同じ権利を原作品の著作者も持つ権利

著作権は著作者に自動的に生じる権利であり、著作権法によって、自身の著作物(印刷物、イラスト、写真、小説、楽曲など)が保護されることになります。

これらの権利のうち、著作権(財産権)の全部または一部は他者に譲ることができます(著作権法第61条1項)。

主に依頼を受けて著作物を作成した場合などで、依頼者がその後著作物を自由に使用したい場合には、適切な権利譲渡をしておくことがお互いにとってのメリットになる場合があります。

一方で、適切な著作権譲渡が行われなかった場合、著作権者(譲ってもらった人)と著作者(著作物の作者)の間でトラブルになってしまうこともあります。

ということで、以下に著作権譲渡についての基本的な注意事項をQ&A形式でまとめてみました。

 


以下の説明の中の「著作者」とは著作物の作者、「著作権者」とは著作権の保有者をいいます。

Q.1 著作権を譲渡すると(譲渡されると)どうなる?

A.1 譲渡した権利について、著作者は当該権利を行使できなくなり、譲渡された人が著作権者になります。

すべての著作権(財産権)を譲渡することを契約する場合が多いですが、財産権のうちの一部のみを譲渡することもできます。

ただし、財産権は譲渡できても著作者人格権は譲渡できません(著作者本人が譲っていいと思っていてもダメです)。そのため、著作権譲渡契約を取り交わす際には内容に注意が必要です(A.4とA.5で説明します)。

なお、譲渡された著作権を別の誰かに再度譲渡することも可能ですが、その場合も元の著作者との間で適切な著作権譲渡契約を締結しておかないとトラブルになるおそれがあります。

 

Q.2 口約束やメールだけで契約書がなくても著作権は譲渡できる?

A.2 契約は必須ですが契約書(書面)の作成は必須要件ではありません。ただし、トラブル防止のために契約書を取り交わしておくのが一般的です。

重要なのは「当事者間の意思表示=契約」であり、必ずしも書面を用いなくても契約は成立します。

例えば、友人のお店のためにショップロゴを作成し、そのロゴを友人が自由に使えるように権利を譲渡する、というような場合、お互いが納得しているのであれば口頭やメールのやりとりのみでも譲渡は成立します。

ただし、一般的なビジネスの場では、条件などについて双方の認識にズレが生じないよう、また、後々問題が生じた際の証拠や根拠とするため、契約書を取り交わすことが殆どだと思います。

著作権譲渡をはじめとした著作権に関する契約については、文化庁の「誰でもできる著作権契約」がわかりやすいのでご参照ください。

 

Q.3 著作権譲渡には譲渡金が必須?

A.3 金銭の支払いは必須ではないですが、相応の譲渡金を支払うのが一般的です。

契約書同様、「当事者間の意思表示=契約」があれば譲渡は可能なので、双方合意のうえであれば無償での譲渡でも問題はありません。

制作料に権利譲渡金も含めて依頼する、というケースもありえます(特にネット経由のデザイン制作依頼の場合など)。

ですが、仕事として著作物の作成を依頼し、その著作物の著作権を譲渡してもらうのであれば、制作料とは別に著作権譲渡金を支払うことが公正な商取引といえます※2

譲渡金の額については特に決まりはありませんが、「業界の相場」や今後の著作物の利用範囲などを考慮して、著作者にとって不利益にならない額であることが望ましいです。

※2 制作料は、あくまでも依頼する著作物を作成し、印刷物や電子データの形態で納品することへの対価です。納品された著作物を自由に改変したい、または別の用途にも使用したいのであれば、権利を譲渡してもらう必要があります。

 

Q.4 外部デザイナーに作成してもらった自社キャラクターについて、色や服装を変えて利用したい場合、どのように譲渡契約をすればいい?

A.4 譲渡契約書に「著作権法第27条と第28条の権利も譲渡に含まれること」「著作者人格権を行使しないこと」を明記した契約を締結する必要があります。

著作権法第61条2項において、次のように定められています。

著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。

著作権法の第27条とは「翻訳・翻案権(著作物を改変・アレンジできる権利)」についての規定であり、第28条は「二次的著作物の利用権(著作物を元に作られた著作物について、元著作者が二次的著作物の作者と同じ権利をもつ権利)」についての規定になります。

つまり、これら2つの権利は、単に「すべての著作権を譲渡する」という記載ではなく、はっきりと「第27条と第28条を含むすべての著作権を譲渡する」というように明示して合意しない限り権利が譲渡されたとはみなされません

また、著作者人格権はたとえ譲渡契約を締結したとしても著作者に残るため、「同一性保持権(著作物を勝手に改変・アレンジされない権利)」も譲渡されません。

そのため、著作物に改変・アレンジを加えることが想定されるのであれば、必ず譲渡契約(書)には、当該著作物について「第27条・第28条も譲渡される権利に含むこと「著作者人格権を行使しないこと」の両方を明記し、そのことを著作者と合意しておきましょう。

この明示がない契約を締結した場合、著作者の許可なく改変などを行うことはできないので、改変して公表すると、著作者との間でトラブルが生じる可能性があります。 

逆に著作者として、著作権を譲渡してもいいが勝手に改変されたくない(変更はその都度制作料をもっらって自分で行いたい)という場合は、「第27条と第28条は含まない」と明記して※3契約を締結しておくとよいでしょう。

※3 「著作権のすべてを譲渡する」とだけ記載された契約書の場合でも、第27条・第28条は含まないものと解釈されるのが通例ですが、譲渡される側がその旨を認識していない場合もあるので、はっきりと「第27条と第28条は含まない」と記載して契約を締結しておきましょう。

 

Q.5 外部デザイナーに作成してもらった自社キャラクターについて、自社の著作物として公表したい場合、どのように譲渡契約をすればいい?

A.5 譲渡契約書に「著作者人格権を行使しないこと」を明記した契約を締結する必要があります。

「氏名表示権(著作物公表時に氏名を表示する・しない、どんな名称で表示するか決める権利)」は著作者人格権に含まれるため、著作権(財産権)を譲渡されても、この権利は譲渡されません(権利は著作者に残ります)。

そのため、著作物を自社著作物として公表する(元の著作者の氏名を公表しない)という場合は、必ず譲渡契約(書)には、当該著作物について「著作者人格権を行使しないこと」を明記し、著作者に残る権利について、権利を行使しないことを約束してもらいましょう。

なお、著作者人格権の不行使の明記なしで譲渡契約した場合、そもそも当該著作物を公表する・しないの決定権(公表権)も著作者が持つことになり、許可なく公表することもできません

この権利も含めて著作者人格権を行使しない旨を契約で明確にすることによって、権利を譲渡された側の自由裁量で公表することが可能になります。

  


最後におまけです(意外と重要!)。

【番外】著作物を指定された金額を支払って購入したら、著作権も購入者のものになる?

番外回答 著作権はすべて著作者に残ります(購入者=著作権者とはなりません)。

自身で購入した市販のマンガやCD、外部デザイナーに制作料を支払って作ってもらったチラシ、素材サイトで購入した写真やイラスト……

所定の金額を支払うことで「所有権(または一部の利用権)」を得ることはできますが、著作権はいっさい譲渡されません(著作者=著作権者であり、すべての著作権は著作者に残ります)。

そのため、「漫画を自宅で保管して好きな時に読む」「CD内の曲をスマホに取り込んで聴く」「チラシを自店で配布する」「利用規約で認められる範囲内で写真やイラストを利用する」などは可能ですが、著作権者の許可がない限り次のような利用は認められません(著作権の侵害になります)。

  • マンガや楽曲などを複製してインターネット上に公開する
  • マンガやCDなどを複製して販売する
  • 楽曲やイラストを自身の著作物の中で利用し、公表する(動画のBGM、自身が描いたイラストの一部に他者のイラストやキャラクターを含める、など)
  • イラストや楽曲を改変してインターネット上に公開する
  • チラシを拡大してポスターや看板にして利用する
  • チラシの中に含まれる写真やイラスト、素材サイトから購入した写真やイラストなどを自身の著作物と称して公表する、または販売する

編集や加工が可能な電子データとして著作物を購入した(納品してもらった)場合であっても、著作権譲渡契約を締結していないのであれば、著作者の許可なく編集・加工して利用することはできません(著作権法で認められる私的な利用等の範囲内での利用は除きます)。

また、著作権譲渡契約ではなく「著作権利用許諾(ライセンス)契約」の場合も、契約期間内かつ契約で許可される範囲内での利用が許可されるだけであり、著作権はすべて著作者に残り、契約者(ライセンス購入者)には譲渡されません

お金を払って購入したのだから、どう使ってもいいでしょ、とはならないのでご注意ください。

  


……今回も長々と書いてあるわりにはかなりざっくりとした(さわり程度の)内容になってしまいましたが、著作権譲渡の際の参考にしていただけたら幸いです。

 

ということで、本日の脳内DJのパワープッシュは、拗らせ界のカリスマ、モリッシーの作った多くの拗らせソングの中でもトップクラスの拗らせ度を誇る名曲、The Smithsの “There is a light that never goes out” です!

もちろん、この曲はlight(明かり)であってright(権利)ではないですが、「There is a right that never goes out(永遠に消えない権利がそこにはある)」的な感じで、著作権には譲渡されない(できない)権利もあることに留意して、適切な譲渡契約を締結しましょう。

くれぐれも著作者にとって不利益にならない契約にすることも、「文化の健全な発展」のためには不可欠です!……なんてことを思いつつ、本日はこの辺で。

 

余談ですが、The Smiths結成前のモリッシーを描いた映画「England is Mine」でもモリッシーの拗らせ感はわりとうまく表現されていたように思います。でもそんな人って案外多くいるような(だからこそモリッシーは世界的に支持されているのかと)。

歌詞や楽曲は検索すればすぐ見つかると思うので、ご興味ありましたら、ぜひ聴いてみてください(アイキャッチ画像はこの曲のサビ歌詞からのインスパイアです)。

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