私の尊敬する経営者が今月をもって会社を他社に譲渡します。度々食事をしながら次なるビジョンについてのお話を聞いていただけに正直驚いています。
遠くない将来には会社からは身を引くと言っていた創業社長。しかしつい最近まで次なる布石を打ってあらたな顧客創造をしていただけにこんなにも早くこういう日が来るとは思ってもみませんでした。もちろんきっと何かあったのでしょうが。
「自分で作った会社だから、執着はない」とその経営者。一方で現在の社員だけはきちっとしなくてはならないと、事前に社員にその事を伝え場合によっては今の会社の経営モデルをその社員だけで継続できるようにと考えたそうです。
傍から見ていて順調に業績を上げていただけに「もったいない」と思わず言ってしまった私ですが、意外にもそういった感覚を持つことはなかったそうです。そこには「あるもの」を受け継ぐことで「守る」意識が潜在的にある私とは大きな違いがあると感じます。
自身の感性で経営されていましたので、販売戦略の費用も常識はずれ。一方で得られる効果も大きかったようです。「それだけの度胸はない」という私に「自分で作ったものは所詮なくしてもゼロ。あるものを引き継ぐあなたよりは気楽」と笑いながら話をされていました。
その経営者が起業した年と私が今の会社にお世話になった年がたまたま同じ。同じだけ経営に身を置きながら企業としての規模の差ができてしまうのは、所詮ゼロからのスタートという腹のくくり方があるのでしょうか。
「でも次なることを考えていますよ」と一言。今年で還暦を迎えますが、今からまたあらたな挑戦のようです。「社長の仕事はアイディアを出すこと」私の師匠がよく口にする言葉ですが、まさにその言葉通りだと思うその経営者の行動力。
現業を守るのは当然ですが、一方で現業と「つかず離れずの思考の距離感」がないと新しいアイディアは出ません。今あるものをリセットすることは私にはできませんが、こんな時代だからこそ現業を俯瞰する距離感を持つべきだと思います。
それにしても「もったいない」と思うのは、やはり私が凡人だからでしょうね。執着心がないから逆に企業を大きく育てられたのかなと思います。そういう意味ではやはり特別な人です。